筆者(工藤貴宏)の個人的な好みをいわせてもらえば、ピックアップトラックは嫌いなジャンルではありません。むしろ好きです。でも、そう思っているのは、どうやら筆者だけではなさそうです。
【画像】「えっ!…」トラックとは思えない快適な乗り心地! 三菱 新型「トライトン」を写真で見る(46枚)
ここ数年、日本国内で販売されていたピックアップトラックは、トヨタ「ハイラックス」だけでした。しかし、多い年には年間1万台以上のセールスを記録。これはトヨタ自動車の予想を大きく超えた人気だそうで、一部で密かなブームとなっていることがうかがえます。
そんな日本のピックアップトラック市場に再参入してきたのが、三菱の「トライトン」です。
「トライトン」といえば、かつて2006年から2011年にかけて日本でも販売されていましたが、今回、再販されたのはフルモデルチェンジを果たしたばかりの最新モデル。しばらくのお休みを経て、日本市場に復活したのです。
そんな新型「トライトン」で検証したいのが、「SUVの代わりに買っても後悔しないか?」という点でしょう。
以前とは異なり、今の日本でピックアップトラックをワークホース的存在として選ぶ人はごく一部の人でしょう。ほとんどの人は、日常とレジャーシーンで使うSUVの代わりに選んでいるに違いありません。
筆者がもし今、ピックアップトラックを買うとしたら、“SUVの延長線にある存在”として日常使いすることでしょう。というわけで今回は、そんな視点から新型「トライトン」をチェックしてみたいと思います。
新型「トライトン」の実車を前にしてまず感じたのは、「やっぱり大きいな」ということです。
ベーシックグレードの「GLS」が全長5320mm、全幅1865mm、全高1795mm、いかにも三菱らしいグレード名である上級の「GSR」が全長5360mm、全幅1930mm、全高1815mmという数値から、「大きいだろうな」ということはある程度予想していました。
しかし、実車を前にしてみると、トヨタの300系「ランドクルーザー」よりさらに約375mmも長い車体は、ホントに大きい。正直いって、この大きさにひるんだら新型「トライトン」の購入は難しいだろうな……と思います。特に街中などでは、乗りこなせるか否か、ちょっと不安です。
なので、この大きな車体を見て「大きくていいね!」くらいの思いがないと、乗り回すのは厳しいかもしれません。
しかし、ひと昔前の大きなクルマと異なるのは、カメラを使った“全方位モニター”により、後方だけでなく、車体の両サイドや前方の状況も手に取るように分かること。なので、ボディサイズは大きいのですが、カメラを介して車体の四隅をきっちりと把握できます。
そういう意味では、大きな車体が収まる駐車場さえ確保できれば、ハードルはそれほど高くない……はずです。
そんな新型「トライトン」のスタイリングは、かつて日本へ導入されていたモデルが丸みを帯びたスマートなスタイルだったのとは対照的に、押し出しの効いたエネルギッシュなもの。今のトレンドを考えれば、断然、新型のラギッドさが魅力的ですね。
こういった押し出しの効いたルックスって、大きなクルマだからこそ似合うのかもしれません。
●「アウトランダーPHEV」に匹敵する内装の質感
対するインテリアは、乗用車と変わらないクオリティが確保されています。
ピックアップトラックがシンプルで割り切りの強い実用車だったのは、もう過去の話だと感じます。確かに、生産国であるタイなど海外のマーケット向けには、業務向けの廉価仕様も用意されていますが、日本に導入される上級仕様はそれらとは全く異なります。
実車を見ても、パネルのつくり込みからエアコンなどスイッチ類の仕立てまで、乗用車として見ても全く不満のないレベルに仕上がっています。特に上級グレードである「GSR」はシート生地がレザーとなり、運転席には電動調整機能もついているほど。少なくとも、「アウトランダーPHEV」に匹敵するレベルの質感です。
気になるキャビンスペースも、必要にして十分な広さが確保されています。日本仕様はダブルキャブという4枚のドアとリアシートを備えた仕様で、後席は十分な広さがあり、センターアームレストもついています。
唯一気になるのは、リアシートの背もたれが立ち過ぎていることくらい。これはトラックという特性上、どうしようもない部分ですが、リラックスという観点で見ると不満を覚える人もいるかもしれません。
それでは試乗とまいりましょう。新型「トライトン」を走らせてみて、筆者は大きなショックを受けました。乗る前のイメージとは全く異なり、とても快適だったのです。
しかもそれは「ちょっと快適」なんてものではなく、「かなり快適」というレベルです。ピックアップトラックでこんなに乗り心地がいいなんて、キツネにつままれたような気分です。
最も快適性の高さを感じるのが、段差を乗り越えるとき。サスペンションを通じて車体、そして乗員へと伝わってくる突き上げる感じが、乗用車レベルに緩和されているのです。
ピックアップトラックの乗り味は、一般的に路面からの衝撃を車体全体ではなく、どこか一点で和らげている感覚があるのですが、新型「トライトン」はモノコックボディのように衝撃を全体で受け止め、緩和する感覚です。この乗り心地のよさは、新型「トライトン」の大きなアドバンテージといえるでしょう。
またハンドリングも、一般的なSUVとそん色ない仕上がりです。フツーのピックアップトラックは、ドライバーの操作に対して車体の動きがワンテンポ遅れる感じがありますが、新型「トライトン」はドライバーの操作に対してよりリニアに反応してくれる印象です。
新型「トライトン」の優れた乗り心地やハンドリングは、初代モデル以来、2世代ぶりに刷新されたラダーフレームやサスペンション、そして電動パワーステアリングなどによる賜物といえるでしょう。
ちなみに日本仕様のサスペンションは、トラックとしてガンガン荷物を積むためのハードタイプ(仕向け地によってオプション設定)に比べると、快適な乗り心地に振ったものが組み込まれており、それも優れた乗り心地やハンドリングに寄与しているようです。
刷新されたといえば、新型「トライトン」のエンジンは、新開発の2.4リッターディーゼルターボが採用されています。わずか1500回転で470Nmのトルクを発生するこのエンジンにより、2トン超えの重い車体ながらグイグイ加速していきます。
その上、ディーゼルエンジンにつきもののノイズも控えめ。アクセル操作に対するレスポンスも良好です。はっきりいって、ドライバーと同乗者は後ろを振り向かない限り、最新のSUVに乗っていると錯覚しそうな乗り味です。そういえば、確か「パジェロ」もこんな乗り味だったように記憶しています。
●極悪路も涼しい顔して走り抜ける驚異の走破性
そんな新型「トライトン」、悪路走破性も素晴らしいレベルにあります。
ラダーフレームと直結可能なローギアつき4WDの組みあわせは、三菱いわく“「パジェロ」のDNA”を継承したもの。実際、4WDメカは最終世代の「パジェロ」に使われていた“スーパーセレクト4WD”の進化版で、日常域での扱いやすさと、センターデフをロックした際の強靭な4WDというふたつの顔を持ち合わせています。
オフロードコースで実際に試してみたところ、「本当にこんなところを走れるの?」と不安になるような路面でも涼しい顔して走り抜けてくれます。
大きな凹凸を超える際はストロークたっぷりのサスペンションが有効な上、かつてのクロカン4WDとは異なり、電子制御を巧みに活用しているのも安心材料。空転しているタイヤにブレーキをかけ、反対側のタイヤにトラクションをかけるという疑似的なデフロック機能なども相まって、頼もしいほどの悪路走破性を発揮してくれます。
しかも、イザというときのためにリアにもデフロックを装備。さらに、激しい悪路やコブだらけのモーグル路面でも、車体自体が地面に接触しないのはさすがです。
このように新型「トライトン」の悪路走破性は、筋金入りの本格派でした。
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さて、結論にまいりましょう。新型「トライトン」はSUV代わりに買っても大丈夫なのか? 答えは全く問題なしです。オプションのトノカバーやキャノピーをつけなければ、荷台に積んだ荷物の雨風をしのげるため、さらに完璧です。むしろ、個性的で荷物をたくさん積めるモデルとしては、がぜん魅力的な存在です。
もちろん、ボディサイズの大きさは悩みのタネとなりそうですが、本物のオフローダーとしても魅力的な新型「トライトン」は、そこが逆に惹かれる部分であることも事実です。
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