日本車はもう「オワコン」…!? 北京モーターショーを賑わせた中国EVメーカーの目標は「打倒イーロン・マスク」ただ一つ

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117台もの新車が登場

中国も5月1日から5日まで「労働節」(メーデー)の5連休だったが、この期間を含む4月25日から5月4日まで、「北京モーターショー」(第18届北京国際汽車展示会)が、市内東北郊外の中国国際展覧中心で開かれた。

東京ドームの面積の4.7倍にあたる22万㎡という広大なスペースに、日本を含む世界中の自動車メーカーの「自信作」がズラリと並んだのだ。

「世界2大のモーターショー」と言えば、いまや「春の北京・上海」(北京と上海で毎年交互に開催)と「暮れの広州」となっている。何せ中国は、昨年の新車販売台数3009万4000台と、世界の新車販売の約4割を占め、圧倒的な「世界最大の自動車大国」となっているのだ。

中国は、2位のアメリカの1561万6878台に、2倍近くの差をつけている。ちなみに、3位はインドの507万9985台で、4位が日本の477万9086台、5位がドイツの284万4609台である。日本はGDPで昨年、インドに抜かれたが、新車販売台数では2022年に抜かれた。今後は、中国、アメリカ、インドが「3大市場」となっていく趨勢だ。

昨今の国際モーターショーは、「世界初お目見え」の新車が何台並ぶかが、一つの目安となっている。今回の北京モーターショーは、117台も登場した。うち外資系メーカーのものが30台だ。世界の自動車メーカーが、いかに北京モーターショーを重視しているかが窺える。

観客動員数も、10日間で89万2000人も会場に詰めかけた。中国のネットやSNSを見ると、会場の熱気が伝わってくる。

周知のように中国経済は思わしくないが、大不況に陥っている不動産業界を尻目に、自動車業界が新たな牽引役を果たしている。「家は買わなくても自動車は買います」という市民が多いのだ。

今年第1四半期(1月~3月)の中国の自動車販売台数は、前年同期比10.6%増の672万台。うちNEV(電気自動車などの新エネルギー車)は、前年同期比32%増の209万台だ。

そんな中、「中国ウォッチャー」の目線から、今回の北京モーターショーを振り返ってみたい。

最大のハイライト

4月25日の初日に、小米(シャオミ)の創業者・雷軍(レイ・ジュン)CEO(54歳)が北京モーターショーの会場に現れた。小米の自動車業界進出は、明らかに今回の北京モーターショー最大のハイライトだった。

小米は、2010年に「中国のスティーブ・ジョブス」との異名を取る雷軍CEOが、10ほど人の仲間と共に「北京のシリコンバレー」中関村で創業したIT企業だ。雷CEOの好きな言葉「仏観一粒米、大如須弥山」(仏が一粒の米を観ること、須弥山の大山の如し=米一粒を観て、それが人の世を広く満たすところまでを考える)から名付けた。

小米は創業当初、穀物関係の会社と勘違いされたというエピソードを持つ。だが、翌2011年に格安の携帯電話を発売してからは、主に庶民層に浸透していった。

当時、私も北京に住んでいたが、創業間もない頃の小米は、失礼だが「IT業界の100円ショップ」のようなイメージだった。中国語でアメリカは「美」の漢字で表すが、日本語では「米」の漢字なので、「小米」とは、「アメリカの真似事」という意味に感じていたものだ。

ところが小米は、2013年に始まった習近平政権の「長期不景気時代」にうまくハマった。小米製品のイメージは、「安かろう、悪かろう」から、「安かろう、まあまあ良かろう」に、そして「安かろう、良かろう」へと変わっていったのだ。私の中国人の友人知人も、「小米のスマートウォッチは最高」と言って腕に付けるようになった。

小米は、2018年7月に香港証券取引所に上場を果たした。その頃から急成長していき、いまでは中国を代表するIT企業の一角となっている。雷軍CEOは全国人民代表大会の代表(国会議員に相当)でもある。

昨年の小米の売上高は2710億元(約5兆7500億円)、純利益は193億元(約4100億円)に上る。主流は売り上げの58%を占めるスマートフォンで、世界の出荷台数は1億4590万台と、3位のシェア12.5%につけている。ちなみに1位はアップルの2億3460万台(同20.1%)、2位はサムスンの2億2660万台(同19.4%)である。

そんな小米は、2021年9月に小米汽車を設立。乱立する中国の自動車業界に殴り込みをかけた。CEOは雷軍氏が自らが務めた。そして今年3月28日、最初の自社製品「SU7」を発表したのだ。

庶民目線を持つ「中国のジョブス」

北京モーターショー初日の4月25日、黄緑色のラフなポロシャツを着た雷軍CWOが、会場に姿を見せた。そして自社のブースに赴き、グレー、ブルー、ホワイトと3台壇上に並んだ「SU7」のピカピカの新車の横に立った。

会場に詰めかけた何百人もの業界関係者やメディア関係者が、一斉にフラッシュを焚く。そんな中で、熱弁を振るった。

「(3月28日から)4月24日までで、『SU7』は、7万5723台売れた! 私が(4月)21日に、投資者たちの質問に答えてから、わずか4日の間にも、さらに5000台以上売れたのだ。

思えばこの4日間に、いろんなことがあった。例えば、テスラはすべての新車を、1万4000元(約30万円)値下げした。わが社のクルマがインターネットでも買えるようになった。

さらに多くの人々が(『SU7』を)申し込んでくれる。これはなぜだろう? それは『SU7』に、並外れた魅力があるからだ。誰もが小米の『SU7』が好きなのだ。小米に一つのチャンスを与えてくれたのだ。

購買者への引き渡しについても、わがグループは非常に能力が高い。発売から28日間で、すでに5781台の『SU7』を引き渡した」

私が驚いたのは、スピーチを終えた雷軍CEOが、大勢のメディア関係者を引き連れるようにして、ライバル各社のブースを見て回ったことだ。「中国のジョブス」は、庶民目線を持った男なのだ。

世界最大のEV(電気自動車)メーカーとなったBYD(比亜迪)のブースへ行くと、そこに創業者の王伝福(ワン・チュアンフー)CEO(57歳)がいた。雷CEOの方から声をかけて、両雄が握手。雷CEOは釈明するように述べた。

「もう十何年も、BYDは小米の携帯電話の重要なパートナーなんだ。いまの小米自動車も同様だ」

BYDは、もともとは携帯電話のバッテリーのメーカーだった。いまでもEV用の電池においては、世界2位の生産量を誇っているため、各EVメーカーとは「パートナー関係」にあるというわけだ。

その時、会場から、「雷軍、テスラをやっつけてくれ!」と歓声が上がった。一同爆笑である。

雷軍CEOは続いて、蔚来汽車(NIO)のブースへ行き、李斌(リー・ビン)CEO(49歳)と、しばし談笑した。小鵬汽車(XPENG)のブースでも、何小鵬(フー・シアオポン)CEO(47歳)と語り合った。

さらに理想汽車(LI)のブースへ行き、李想(リー・シアン)CEO(42歳)とも談笑。李想CEOは、展示してあった自社の『L6』への試乗を勧め、雷CEOを運転席に座らせて、自ら解説していた。

その後、李想CEOは自身のSNSで、「雷CEOに『理想L6 Max』を1台プレゼントする」と宣言した。「自社が一番苦しかった時に、助けてくれたお礼」だという。その上で、こうも吐露した。

「雷CEOが自動車業界に参入する時、私にアドバイスを求めてきたので、一つだけ忠告した。『あなた自身が100%の力を注いで自動車に入り込むことだ。他に人にやらせたのではダメだ』と」

このように、中国の新興EVメーカーの創業者たちは、40代、50代の意気軒高な世代なのだ。彼らは、ライバルであると同時に、「共に中国のEVを発展させていく仲間」という意識も持っている。そして競うように、多額の資金を惜しげもなく使って、新たなEVの開発に邁進しているのだ。

例えば小米は、今年3月に50億元(約1100億円)をかけたEV工場を完成させた。それは最新のITやAI技術を駆使したもので、雷CEOは自らを「雷工場長と呼んでほしい」と社員に呼びかけ、こう述べている。

「このEV工場は、最先端の700台あまりのロボットを駆使して、100%自動生産、100%自動計測を実現した。ここでまずはEVを作り、近未来にはスマートカーを生産していく」

もはやライバルはテスラのみ

今回の北京モーターショーの様子を見ていて、私が再認識したことが2点ある。一つは、「クルマは大きなスマートフォンである」という発想だ。

例えば、雷CEOは、「自分たちはスマホ業界で世界3位まで上り詰めたのだから、クルマ業界でも行ける」と考えているのだ。ちなみに、2023年の世界のスマホ出荷台数のベスト5は、アップル、サムスン、小米、オッポ、トランションの順で、3位、4位、5位が中国メーカーだ。

おそらく他の中国の若いEVメーカーの経営者たちも、同様の考えだろう。そこが、「EVはガソリン車の延長」と考える日本のメーカーとの相違点だ。

今回再認識したもう一点は、いまや中国の若いEVの経営者たちがライバル視しているのは、自分たち中国メーカーを除けば、イーロン・マスクCEO率いるテスラだけだということだ。

日本の大手自動車メーカー各社は、EVで中国メーカーをライバル視している。だが、当の中国メーカーは、日本メーカーのことが眼中にない。極論すれば、「ガソリン車の時代の終わりとともに去りゆく人たち」という冷めた目線で見ているのだ。

実際、世界最大の中国市場におけるこのところの日本メーカーの苦戦は一目瞭然だ。その様子は3月にこのコラムで詳述した通りである。

参照)中国市場の動向から見る「日本車の限界」…前世紀から続く「自動車王国・日本」が終わりを迎える日は近いのか?

昨年の中国市場での販売台数は、トヨタが前年比1.7%減の190万7600台、ホンダが前年比10.1%減の123万4181台、日産が前年比16.1%減の79万3768台である。最近は世界各地で、日本勢が得意とするハイブリッド車が持ち直してきたとはいえ、中国勢はEVに賭けている。なぜなら、「EV→無人運転スマートカー」という時代の流れが自然だからだ。

4月の中国新車市場は、初めてガソリン車の販売台数が5割を切った可能性がある。中国勢は明らかにガソリン車を、一昔前のカメラのフィルムと同じ「オワコン」(終わったコンテンツ)とみなしている。

そうなると、中国メーカーにとっての目標は、世界のEV業界を牽引してきたテスラということになる。「打倒イーロン・マスク」だ。

実際、3月の中国市場の新車販売台数で、BYDの「秦PLUS」が5万394台となり、ついにテスラの「Model Y」の4万7917台を抜き去った。中国メディアは「テスラ王国の瓦解」を報じた。

EVは国家なり

もちろんテスラとしても、こうした苦境は十分認識している。そのことを如実に物語っていたのが、4月28日と29日、同社のイーロン・マスクCEOが突然、北京を訪問したことだった。インド訪問をドタキャンして、中国へやって来たのだ。

マスクCEOは、モーターショーの会場には姿を見せなかった。そもそも基本的に宣伝費をかけないテスラは、北京モーターショーを無視し、自社の展示ブースさえ設置していなかったのだ。

それでも北京モーターショーの会場で、「マスク訪中」は大きな話題を呼んだ。マスクCEOは、中国滞在わずか44時間の間に、立て続けに李強首相を始め、外交部、工信部、商務部、中国貿易促進会の幹部たちと会談した。一連の会談を終えると、28日深夜に、自社工場がある上海にすっ飛んで行った。

この「マスク訪中」は何を意味するのか?

中国官製メディアは、このところ習近平主席以下が主張している「中国市場は世界に開放している」ことの象徴だと報じた。同時に、欧米が主張している「不景気な中国が廉価なEVをダンピング輸出している」という批判を、マスクCEOが否定したとも強調した。さらに、「未来のすべてのクルマはEVになる」という「マスク用語」も紹介された。

一方、マスクCEOの思惑については、北京モーターショー関係者の間で、様々な憶測が飛び交った。「中国市場から閉め出される」ことへの危機感を抱いており、自動運転支援システム「FSD(フルセルフドライビング)」や新型コンパクトEV「モデル2」の早期導入を約束したといったことだ。

「自動車は国家なり」ということは、何も日本だけではない。GDPの3割を占めていた不動産業が破綻しつつある中国もまた、「EVは国家なり」と考えている。そうしたことを再認識した今年の北京モーターショーだった。(連載726回)

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