エンジン?電気?「フォルクスワーゲン」の本音 単独インタビューで見たシェーファーCEOの愛

フォルクスワーゲンといえば、ちょっと上の年代にとって輸入車の代名詞。たとえば、「ゴルフ」に乗るのは憧れだった、あるいは実際に乗っている(いた)も人は多いのでは。そのフォルクスワーゲンが今、変革の時を迎えている。

【写真で見る】ポロでもゴルフでもない次世代のGTI、「ID.GTI」

フォルクスワーゲンの現状は複雑だ。「ID.」シリーズに代表されるバッテリー駆動EV(BEV)のラインナップを拡充し、新世代のプラットフォームを使ったBEVの開発を進めている一方で、世界的なBEVの行き詰まりを受けてハイブリッド車(HEV)を強化するなど、パワートレイン戦略を見直す、といった具合。

もうひとつ、フォルクスワーゲンの今後で気になるのは、ゴルフの行方だ。第8世代である現行モデル(通称:ゴルフ8)の販売が、勢いを失っている。

ティグアンがナンバーワンという現実

かつて、ゴルフは“スーパーブランド”と評されていた。上も下もない、市場のヒエラルキーを超越したポジションを得ていて、ゴルフユーザーが次に買うクルマはゴルフ。日本でもそういう人、けっこういたと思う。

フォルクスワーゲン本社が出した2023年度のアニュアルリポート(年次事業報告書)によると、ゴルフの2023年度の生産台数は30万9414台。COVID-19の影響で生産が停滞していた過去数年よりは上がったけれど、内容は往時と違う。

フォルクスワーゲンの販売ナンバーワンはSUVの「ティグアン」で、63万3147台。ゴルフは、その半分にも満たない。

自動車に興味ある人間として疑問を抱える私に、フォルクスワーゲン グループ ジャパンは、フォルクスワーゲン本社のトマス・シェーファーCEOとのオンラインインタビューの機会を設けてくれた。2024年4月中旬のことだ。

シェーファーCEOは、世界各地のフォルクスワーゲンで働く社員からも、熱い期待を寄せられている人だと、以前から聞いていた。1970年生まれのシェーファーCEOは、ダイムラー・ベンツ(現・メルセデス・ベンツ)での勤務のあと、2012年にフォルクスワーゲン AGに入社。2022年から、フォルクスワーゲンブランドのCEOを務めている。

2023年には「フォルクスワーゲン・クラシックツアー」なる従業員参加のイベントを開催。自身は、黄色い車体にマットブラックのボンネットを組み合わせたスポーティな見かけの「タイプ1(オリジナルビートル)」で参加して、社員から喝采を浴びたという。

シェーファーCEOについて、もうひとつ、社員がおもしろがっていることがある。「Love Brand」とフォルクスワーゲンを再定義しよう、という発言だ。「クルマを作って売る立場としてヤル気をかきたてられる」と、社員は話しているそうだ。

「ゴルフの今後」はどうなるか?

少し話がそれるけれど、いま日本で興味深い動きがある。20代に「ゴルフ2」(1983−1992年)の中古が人気なのだ。理由を尋ねると「シンプルなスタイルとしっかりした作りが他にはないから」だとか。それに「なんだか愛着が感じられる」とも聞いた。

実は、まさにシェーファーCEOが頭の中に描いているのが、上記のようなブランドと消費者との“関係の再構築”のようだ。これは、フォルクスワーゲンの広報担当から聞いたから、事実なのだろう。

そんなことを背景に臨んだ、今回のオンラインインタビュー。私がシェーファーCEOに聞きたかったことのひとつは、前述した「ゴルフの今後」について。

フォルクスワーゲンでは、2024年に現在のゴルフ8の改良版、通称「ゴルフ8.5」を発表する予定だ。そしてその先にまったく新しい「ゴルフ9」がある。いっぽう、それと並行するように、ピュアEVの「ID.」シリーズのラインナップ拡充に力を入れている事実がある。

果たして今後、フォルクスワーゲンのラインナップの中心はゴルフでなくてSUVになるのだろうか。それとも、ピュアEVにとって代わられるのだろうか。

「将来ゴルフは、新しいプラットフォーム(SSP=スケーラブルシステムプラットフォーム)を採用してピュアEVになります。その路線は変わりません。計画では2020年代後半の導入です」

コンピューターの画面に登場したシェーファーCEOは、通称「ゴルフ9」と言われる未来のゴルフについて、そう語る。そして「たしかに……」と言葉を続ける。

「現在の販売状況をみると、アメリカや中国といった大きな市場では、ティグアンの販売台数がゴルフを抜いているのは事実です。でも、今後もゴルフはフォルクスワーゲンのラインナップの中核であり続けると思います。はっきりしたことは、現時点では言えませんが」

ゴルフは中核モデルのまま、ただしBEVに。つまり、フォルクスワーゲンのBEVシフトは着実に進むということだろう。

「GTI」や「R」の次世代は?

「このところピュアEVの販売は、やや停滞しています。ウクライナでの戦争の影響があって電気代が高騰すると同時に、金利も上がって、逆風が吹いていたためです。しかし、金利は下がってきており、状況は持ち直していると思います。私たちは、カーボンニュートラルを目指す企業であり、そのためには製品の電動化がもっとも効率的でしょう」

さらにシェーファーCEOは、「だから、CO2排出量の少ないモデルを開発する手を休めるつもりはありません。2024年中に発表するゴルフ8.5のプラグインハイブリッド(PHEV)は、モーターだけで最大100km走ります」

ゴルフのポジションは、決してゆるがせにしないつもりだとする。つまり、ゴルフはフォルクスワーゲンにとって、これからも重要なモデルであり続けるということだ。

「ゴルフには、ゴルフGTIやゴルフRといった素晴らしいヘリテージがあります。ただし、これから同じクルマを作っても意味はなく、私たちは新しいGTIや新しいRを生み出さなくてはなりません。これらのクルマを愛してきてくれた人たちに対して、私たちから将来、愛をクルマの形で返したい。それこそが、私の考えるLove Brandのあり方なのです」

【写真】次世代ホットハッチ「ID.GTI」コンセプトのデザインを見る

ゴルフ9について具体的なことは語られないけれど、たとえば、間もなく登場するゴルフ8.5でPHEVのEV走行距離を拡充するなどの性能向上は、「ゴルフでなくては」と考えるユーザーのため、ということだろう(日本へのPHEV導入は未定だが)。

さらにもうひとつ、期待の新車がある。2025年に発表が予定されているコンパクトなハッチバック「ID.2 all(アイディーツーオール)」だ。

コンセプトモデルを見ると、現行「ポロ」の後継車と言われてもなんの違和感も抱かない魅力的なルックスであり、同時に「ID.GTI」なるホット版の計画もすでに発表されている。

「私たちは、それがピュアEVであろうとICE(エンジン車)であろうとハイブリッドだろと、ユーザーに『欲しい』と思ってもらえるモデルを提供していくつもりです。これからも、顧客のニーズにフォーカスしたモデルを出していくと約束します」

「それが、顧客の求めているものだから」

「ID.GTI」コンセプトが発表されたのは、2023年にミュンヘンで開催された「IAAモビリティ」だった。そのとき、シェーファーCEOは次のようにコメントしていた。

「経営資源、この場合はパワートレインのことですが、それをバランスよく配分していくことが大事だと考えています。1年前、『フォルクスワーゲンはICEに投資しすぎだ』と批判されました。しかし、どうでしょう。今はそれが正解だったと思います。将来はBEVであることを疑っていませんが、しばらくは、フレキシブルにパワートレインのラインナップを構成していきます。それが、顧客の求めているものだからです」

そこでシェーファーCEOはもう一度、「それがLove Brandの務めなのです」とした。今回のオンラインインタビューを通じても、フォルクスワーゲンのCEOとして心からそう思っている様子が伝わった。ひとりのクルマ好きとして、私はこの路線、大いに支持したいと思う。

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