クルマ購入時、ディーラーがやたらと「コーティング」を勧めてくる理由

内訳「材料費 + 人件費」

 新車であれ中古車であれ、クルマを買うのは経済的に大きな負担がかかる。仕事のパートナーとして買う場合もあれば、念願のマイカー購入という場合もある。購入したクルマを大切に扱いたいと思うのは当然のことだが、購入時に自動車ディーラーではコーティングを売りたがるケースが多い。いったいなぜか。

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 いきなり結論だが、コーティングは非常に利益率が高いのだ。コーティングにかかる費用の内訳は、

・材料費(コーティング剤とメンテナンスキット)

・人件費

である。筆者(宇野源一、元自動車ディーラー)が勤務していた頃は、費用の8割が人件費だった。

 例えば、約8万円のコーティングをディーラーオプションで施工した場合、人件費とする部分は約6万4000円で、施工時間で実際の人件費を差し引くと、

「約半分が利益(粗利)」

となっていた。自動車ディーラーでの人件費の計算方法は

「想定されるひとり分の工賃単価 × 時間」

であり、工賃単価が高く設定されているため、利益が出やすい。

 しかも、自動車ディーラーによってはコーティングを外注ではなく、自店所属のメカニックに施工させる場合もあり、粗利を稼ぎやすいカラクリになっているのだ。

 他のディーラーオプションを販売しても、原価のほとんどが材料費(部品代)に消えてしまうため、どんなに頑張っても粗利は30%まで。それならば、自動車ディーラーはコーティングを積極的に販売した方がもうかる、というわけだ。

 コーティングにはいろいろな種類があり、数万円で施工できるものもあれば、10万円以上するものもある。高価なコーティングほどコーティング被膜は厚く、性能は高いが、材料費は数千円程度しか高くならない。材料費の上乗せよりもコーティング施工にかかる時間(工程)が長くなるため、人件費が上乗せされることになる。

 そのため、自動車ディーラーはより高価で「プレミアム」なコーティングを売りたがるのだ。

業者によって当たり外れ

 前述のとおり、コーティングを専門業者に外注せず、自社のメカニックが行っているケースがある。これが、高い費用をかけているにもかかわらず、コーティングの仕上がりに差が出てしまう大きな原因となっている。

 新車のオプションコーティングを例にとってみよう。コーティングは主に次の3パターンのいずれかで施工される。

1.専門業者に外注する

2.納整センターで行う

3.自店で行う

「1」の費用が最も高く、「3」が最も低い。

「2」の納整センターは、おそらく一般人にはなじみがないと思うので、補足説明をしておこう。新車はメーカーの工場で完成すると自動車ディーラーに納車されるが、その間に必ずあるのが納整センターである。ここに自動車ディーラーが注文した新車が集められ、品質チェックが行われ、顧客が注文したディーラーオプションが装着される。

 ここですぐに納車できる状態にしてから自動車ディーラーに配送するというスキームだ。高価で手間のかかるコーティングの場合、納整センターでコーティングを施工してから店舗に送られることが多い。コーティングは、基本的に「1」と同じ品質と考えてよい。

 コーティングの施工について補足すると、

「洗車 → 下地処理 → コーティング」

という流れが一般的だが、下地処理をどのように行ったかによって仕上がりが大きく左右される。

 新車であっても、メーカーから納車されるクルマには多少の小傷がある。ここでいう小傷とは、磨き傷や洗車傷のことで、メーカーが定めた品質基準とは関係のないものだ。コーティングを施工する前にこれらの小傷を除去し、下地をきれいに整えておくと、コーティングの仕上がりが違ってくる。

 自店でコーティングを施工する場合、この下地処理が甘い。洗車や脱脂はするが、小傷を磨くことはほぼしない。これは、現場のメカニックの多くがクルマを磨く技術を持っていないことと、磨く時間がないからだ。ひどい店になると、クルマを売った営業マン自身がワックスがけのようにコーティングを施しているケースもある。

 同じ費用を支払っても、施工する人や場所によって、コーティングの質は大きく変わることを理解しておこう。

利害関係合致すれば要施工

 クルマを購入するユーザーにとって、新車購入時にコーティングを施工するメリットは大きい。なぜなら「手間がかからない」からだ。

 コーティング業者を探し、契約し、納車後にクルマを持ち込むのは大変な作業だ。しかも、納車されたばかりのクルマをすぐに預けなければならないので、精神的に落ち着かない。そんなとき、すべてがワンストップで済む自動車ディーラーに頼むのが効率的だ。

 さらに、購入時に値引きを引き出しやすいというメリットもある。コーティングは利益率が高いと説明したが、利益率が高いということは、

「その分値引きが可能」

なのだ。仮に15万円のコーティングを依頼する場合、専門店ではその金額をキープすることになるが、新車に付ければ実質、12万円程度に値下げされる可能性もある。

 また、自動車ディーラーにはコーティングの受注目標が設定されているため、タイミングによっては、ワンランク上のコーティングで実質的な値引きする場合もある。また、高い値引きを提示して、コーティングをすすめてくるケースもあるだろう。

 このように、ユーザーと自動車ディーラーの双方にメリットがあるなら、コーティングを施工してもらうのもひとつの手だ。

 せっかく新車を購入するなら、常にきれいにしておきたいと思うのが人の心理だ。駆け引きが必要だが、交渉してみるのもいいだろう。

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