「BMW5シリーズ」と「メルセデスEクラス」戦略の明らかな違い【試乗記】

『i5』は2タイプ/3グレード

パワーユニットで明確な差別化が図られた

 5シリーズは、弟分の3シリーズと共にBMWラインナップの根幹を成すモデルだ。1972年に初代が登場し、すでに半世紀以上の歴史を持つ。紹介するのは昨2023年に約7年ぶりとなるフルモデルチェンジを経てデビューした第8世代。まずは4ドアセダンからローンチされ、先日、日本でもワゴンモデル“ツーリング”が発表された。

 ツーリングにはガソリンエンジン・バージョンが設定されていないが、セダンはガソリンとディーゼル双方のエンジンを用意。加えて、5シリーズ史上初となるBEV版を設定した点が大きな話題になる。ちなみにBEV版でも基本のボディ骨格は、エンジン・バージョンと共有している。ライバルのメルセデスEクラスが、それぞれに専用骨格(BEV版はEQブランド)を用意するのとは異なる戦略を取っている点は興味深い。

 BMWのネーミングルールによって『i5』と名付けられたBEV仕様はeドライブ40エクセレンス、eドライブ40Mスポーツ、そしてM60xドライブの2タイプ/3グレード。両者はパワーユニットで明確な差別化が図られた。

eドライブ40シリーズの航続距離は500km

ハイパフォーマンスなM60×ドライブは455km

 eドライブ40は後輪側に最高250kW(340ps)の出力を発するモーターを配したベーシック仕様。“Mパフォーマンスモデル”に属する後者は後輪側に250kW(340ps)、前輪側に192kW(261ps)のモーターを配した4WDの高性能バージョンである。0→100km/h加速は、eドライブ40の6秒に対して、M60xドライブは3.8秒という圧倒的に高い動力性能を誇る。

 ただし、駆動用バッテリーはいずれも同じ容量(83.9kWh)。そのため一充電で走行できる距離に差が生じるのは必然といえる。WLTCモード値はeドライブ40が500km、M60xドライブが455kmとなっている。

 今回試乗したi5は、ハイパフォーマンス・バージョンのM60xドライブである。パノラマガラスサンルーフを含むオプションの“セレクトパッケージ”を装着した試乗車の車両重量は2390kgと重量級だった。

 だが442kW(601ps)/820Nmを誇るシステム出力とトルクは圧巻。全力加速時は保舵力が軽くなるのを実感するほどだった。良いか悪いかは別問題として、走り出しの瞬間から高い静粛性をそのままにヘビーウェイトを忘れさせてくれることになった。

 フロントに245/40、リアに275/35サイズの20インチタイヤを、共に2.7バールという比較的高い内圧で履くにもかかわらず、フラット感が高く路面凹凸への当たりも比較的マイルドな乗り味にも驚いた。タイヤがランフラット構造ではないことやリアサスペンションにエアスプリングを採用した効果は少なくなさそうだ。

 ハンドリングの完成度も高い。重い車重や4WDシステムであることを意識させない自在なハンドリング感覚の持ち主に仕上がっている。さすがにBMWの作品である。

 エンジン車はガソリンの523iに試乗。2Lのターボ付き4気筒エンジン(190ps/310Nm)を搭載した523iは、i5と同じく5mを超える大柄ボディの持ち主でありながら走りは爽快。グンと強い走りの身の丈感を味わえた。

ガソリン仕様は軽快な走り味に好感

モダンで先進的な室内は操作に慣れが必要

 48VマイルドHVのモーター出力は5kWにすぎず実際にその威力を体感するのは難しい。その一方で、数字上はパワフルとはいえないエンジンがもたらす力感は、日常シーンではまったく不足を感じない。時に耳に届くエンジンノイズが4気筒の音質で、正直そこに「見た目の印象と釣り合わない」という物足りなさを感じさせられる場面があったものの、不満と思えたのはただその1点だけだった。BEV仕様のi5に比べて車重が600kgほども軽い1760kgに抑えられていた点も、前述の“身の丈感”の演出につながることになっていたはずだ。

 上質で先進的なインテリアの雰囲気は、i5、523iとも7シリーズに近い。メーターパネルとインフォテインメント用スクリーンを横並びでレイアウトした“カーブドディスプレイ”や、その下にレイアウトをされたアンビエントライトバー、クリスタルを多用した細部の作り込みや異形ステアリングホイール、高いセンターコンソールなど、数々の特徴的アイテムで構成されている。多くの物理スイッチを廃して生まれた異例にシンプルでクリーンなダッシュボード周辺のデザインも、やはり同様の印象だ。

 それゆえ思いどおりの操作をしようとした際に一筋縄ではいかない場面に多々遭遇することになった。この点も7シリーズと同様である。もはや主要操作は音声入力で……という意見もありそうだが、こと各スイッチのコントロール性については、多くのBMWファンが愛でて来た“操る歓び”とは相容れない方向に進んでいるようにも思えてしまう。

 外観上は7シリーズよりも遥かにコンサバティブに思える5シリーズだが、乗り込めばやはりなかなかエキセントリック。どのようにユーザーに受け入れられるのか注目したい。

(CAR and DRIVER編集部 報告/河村康彦 写真/横田康志朗+山上博也)

2024-04-29T23:11:49Z dg43tfdfdgfd