「柔らかいクルマはスバルじゃない!」都会派レイバックに社内から反発も…開発陣「そこは戦いました」

スバルの新SUV「レヴォーグ レイバック」編の最終回。スバルのクルマは全体的に(レヴォーグを含め)足回りが硬いセッティングなのですが、レイバックはしっとりと上質な乗り心地が印象的。そしてものすごく静かです。元車のレヴォーグから何を変えたらこんなに変わるのか? レイバックの開発者に、その秘密を教えてもらいました。(コラムニスト フェルディナント・ヤマグチ)

石垣島トライアスロンに出場、したのですが……

 みなさまごきげんよう。

 フェルディナント・ヤマグチでございます。

 今週も明るく楽しく、ヨタ話からまいりましょう。

 週末、石垣島トライアロンへ出場してまいりました。昨年より2週間も遅く開催された本大会。オフィシャルでは当日の気温が27.5℃と出ていましたが、実際は軽く30℃超え。これは厳しいレースになりそうです……。

 石垣島は東京からおよそ2000km。沖縄本島からも400kmほど離れています(ちなみに台湾までは270km)。毎年3月中旬には海開きが行われる南の島、当然暑い。適切な給水がレースのキモとなりましょう。

 練習嫌いの不肖フェル。それでもコロナ禍前までは、大会目指してそれなりに練習していたのですが、コロナで大会が片端から中止になってしまうともういけません。パタリと練習しなくなってしまいました。トライアスロン仲間の中でも真面目な人間は来たるべき明日に備えてコツコツ練習を続けていましたが、私は目前の目標がないと動けないタチ。バイクとサーフィンという新しい趣味もできて、結果、トライアスロンからはすっかり遠ざかってしまいました。出場するのは年にせいぜい2、3回(最盛期は月に1回くらい出てていましたからね)で、何らかの縁かゆかりがある大会だけ、という体たらく。とても「トライアスロンをやっています」と胸を張って言えるような状態ではありません。

 バイクセクションは風が強く、あおられて転倒する選手が出るほどでした。ランセクションは予想通り暑さとの戦い。日陰で座り込んでしまう選手も多く見かけました。私はキロ6分という散歩のようなスローペースで走り、なんとかゴールにたどり着きました。

 参加人数1016人。完走者数は946人、完走率は93.3%。この厳しいコンディションの下ではまずまずと言ったところでしょうか。それにしてもあまりにも遅い。ちょっと練習する気になってきました。

 ……というわけで本編へとまいりましょう。スバルの意欲的なSUV、レヴォーグ レイバックの開発者インタビュー、今回がラストです。

 スバルの造るクルマは、全般にしっかりと足回りが固められている印象がある。

 インタビューの最中に、率直にその意見を伝えると、間髪入れず「印象じゃなくて事実です。ウチのクルマの足は硬いです」と、スパッと竹を割ったような返事が返ってきた。即答だ。エンジニア自らが認める、硬い足回りのスバルのクルマ。

 そんな中で、都会派を標榜するレヴォーグ レイバック(以下、レイバック)はしっとり柔軟なセッティングで、しかも静寂性が非常に高い。柔らかく静かで乗り心地が良い。こうした「上質な乗り心地」は、いかにして構築されたのか。開発者インタビューの最終回は、その辺りから掘り下げていこう。

レイバックはなぜ、あんなに静かなのか?

フェルディナント・ヤマグチ(以下、F):レイバックは驚くほど静かですよね。元車であるレヴォーグと比べると、格段に静かになりました。自分は試乗記で「車高を上げてタイヤハウスにスペースができたのでロードノイズがこもらず、静かになった」と書きました。その考察に間違いはありませんか?

SUBARU 商品企画本部 プロジェクトジェネラルマネージャー 小林正明さん(以下、小):ご名答。合っています。ですがもちろん、それだけではありません。まずタイヤの種類が違う。今回レイバックに装着したオールシーズンタイヤはスバル専用に開発したものです。タイヤとしての性能もさることながら、音に関しても非常に良くできていて、騒音が発生しにくい構造になっています。そもそも音が出にくいタイヤを履いた上に車高が上がってタイヤハウスにスペースがあるのですから、相乗効果で騒音のレベルはうんと下がっています。

SUBARU 技術本部 車両開発統括部 主査 藤井忠則さん(以下、藤):レヴォーグはスポーツタイヤを履いていますから、やっぱりロードノイズという点ではちょっと不利なんです。グリップ重視のタイヤですからね。騒音よりも走行性を取ったというか。一方で今回のレイバックは、他社さんのSUVと比べても、非常に良いレベルに仕上がっていると思います。

F:それ以外に静かになった理由はありますか? レヴォーグに加えて部分的に鉄板を厚くしたとか、防音材を増やしたとか、静音性、制振性を高めるための機能を付加しましたか?

「都会派SUV」の名にふさわしい、しなやかな乗り心地を目指した

藤:していません。もともとレヴォーグを造る時に、相当その辺りを注意して開発したので、それがレイバックになってより際立ったのだと思います。例えば段差を乗り越えた時の乗り心地とか。これも静寂性の印象に大きく関わるのですが、我々もこのクルマをやる時に「都会派ってなんだろう」と自問自答して、あえて麻布十番とか広尾の方の石畳を走りに行ったりしたんです。

F:都会派と言うのであれば、本当の都会を走らないと、ということで、群馬から麻布まで走りに行ったと。

藤:ええ。工場のテストコースだけでなく、あえて都内で走行試験をやったんです。商店があって、住宅があって、大使館がいっぱいあるようなところを走って、石畳を越えて、バンプを越えて、複雑な交差点が多くストップ&ゴーを繰り返す中で何度も何度も乗って足回りを詰めていきました。我々のクルマは元々スポーティーで足がしっかりしています。それは分かり切っている。スバルに乗る人はそれに慣れている。でも街中を長く走っていると、それはどうしても疲れにもつながってくる。

F:それはそうですよね。

藤:やっぱり足回りも、よりしなやかにした方が都会の普段使いとしてはいいんじゃないか。そんな意見を交わしながら、静粛性と上質さと乗り味、乗り心地という所を作り込んでいったんですね。

F:しなやかにする、柔らかくすることに対して、社内から反対意見は出ませんでしたか。「柔らかいクルマはスバルじゃないだろう!」と言い出す人がいそうな気がします。

藤:出ました出ました。やっぱりそれは当然のように出るんですよ。ですからそこは戦いました。実は今回ステアリングフィールも柔らかく軽くしているんですが、そこも相当突っ込まれました。「こんなことするな!」と、かなり言われました。

F:誰がダメだと言ってくるんですか? 上の人ですか?

「こんな柔らかいのダメだろ」社内の反対とどう戦う?

藤:いや「誰」というよりも「皆さん」ですね。開発の要所要所で試乗会を開いて意見を出し合うのですが、やっぱり全員一致なんてしないんですよ。特に柔らかめに振ったりすると、「こんなのダメだろ」という意見は絶対に出るんですよ。

F:最終判断は誰がするんですか。「いろいろ意見が出たけれども、今回はこれで行くよ」というのは誰が決めるんですか?

小:最終的には私です。もちろん藤井の方が専門的な知識があるので、藤井の意見を聞きながら、じゃあこれで行こう、という最後の最後は、私が。

藤:そうですね。性能面は私に任されていますので、開発完了判断は私がしなきゃいけません。目標性能を達成した、という判断は私がします。

小:やっぱりですね、いろいろ言われるんですよ(苦笑)。

藤:戦うと言ってもね、苦しいですよ、そこは。やっぱり今までのスバル車のイメージがあるじゃないですか。ゴリゴリのアウトドア派でスポーティーで、っていうイメージが。それを変えてしまうのはやっぱりものすごく大変で。でも一番大事なのは、“お客様にどう理解していただけるか”なので。

F:社内の試乗会をやって、最初に藤井さんが決めたときよりも徐々に硬い方向に戻したりとか、そんなこともありましたか?

藤:これはちょっとアレなんですが、「分かりました。それじゃちょっと戻しときますか」、とか言ってそのままにしたりとかね(笑)。で、次回乗ると、「そうそうこれくらいだよ。こんな感じ」なんて言われたり。結構そんなものですよ(笑)。

F:あははははは。まあ、でも乗る人の体調とか、気分とか、当日の気候とかもあるでしょうしね(笑)。

藤:冗談はさておき、我々も新しい領域に踏み込まなきゃいけない時代が来ているんですよ。どこかのタイミングでやらなければいけなかった。それが今だった、という事だと思います。

レイバックの試乗に来て、レヴォーグを買って帰った人も

F:社内の説得もさることながら、お客の反応はどうですか? 「なんだこの柔らかいのは、こんなのスバルじゃないだろ」と、いわゆる“スバリスト”と言われるマニアの方から厳しい意見は出ませんでしたか?

藤:出ましたよ。でもレイバックよりもゴツゴツしたものがお好みだったら、レヴォーグを買っていただければいいので。

F:キャンプに行きたい人はどうすれば良いんですか? 硬い足回りでキャンプに行きたい人は。

小:それならアウトバックがありますよね。

F:なるほど。それこそがラインアップというものですね。

小:レイバックが出てからディーラーにたくさんのお客様が来てくださったのですが、試乗してみると「やっぱりレヴォーグがいいな」となって、実際にレヴォーグを買われたお客様がたくさんいらっしゃるんです。我々としても、レヴォーグとレイバックでカニバる(注:食い合うこと)んじゃないかと売り出す前はドキドキしていたのですが、フタを開けてみると両方の売り上げが伸びるという、いい具合に相乗効果が出て、実はホッとしているんです。

レヴォーグはお父さんだけ楽しいクルマ?

藤:これは笑い話の類いなんですが……。「レヴォーグはお父さんだけ楽しいクルマ」っていう声がご家族連れのお客様から結構あるんですよね。家族はみんな後ろに乗るから、どうしても突き上げがキツく感じてしまう。お父さんは運転が楽しそうだけど、私たちはどうするのよって(苦笑)。そんなお客様はもう大喜びでレイバックを選ばれています。逆に、特に突き上げが気にならないで、スポーティーな乗り味がお好みの方はレヴォーグを選ばれる。

立体駐車場に入れるには、2cmオーバーしてしまう問題

F:お客様の声といえば、レイバックはわずか2cmの高さオーバーで、標準的な立体駐車場(高さ制限が1550mm以下の駐車場)に入らないボディサイズですよね。それに関してはどうですか? お客さんから批判の声はありませんか。

小:企画の段階で営業サイドからはさんざん言われていましたし、売り出した後はディーラーさんからの声もたくさんありました。今回は「都会派」と言っているのでやっぱり都内で多く売れているんですが、その都内に多い立駐(立体駐車場)に入らない。都会派を謳いながらおかしいじゃないか、とお叱りは受けました。でもこれはもうごめんなさいとしか言いようがありません。スバルが造るSUVとしての乗り心地とか、SUVとしてのボリューム感を出すためには、どうしてもこの寸法が必要だったんです。こればかりは譲れません。本当に申し訳ないのですが、こればかりは何とも。

F:ですよね。私がスバルの営業だったら大騒ぎすると思います(笑)。

小:我々も立駐対応の大切さは重々承知しています。本当にいろいろと工夫して頑張ってはみたんです。でも(車高を)落としきれなかった。やっぱりここは譲れないっていうところがあって、ここはもう本当に泣く泣く断念したというのが本当のところです。本当にそこは悔しくて悔しくて……。

F:いいお話をたくさん伺いました。最後に読者のみなさんにお言葉をお願いします。

小:文章や動画を見ても、実際に乗っていただかないと分からない部分がたくさんあると思います。読者の方に少しでもレイバックに興味を持っていただけたなら、ぜひ試乗していただきたいと思います。ご興味があればですね、ぜひ。乗れば分かりますので。

藤:スバルはまだまだ小さくて、販売台数も少ないですから、スバリストと呼ばれるコアなファンの方に支えられて今がある会社です。でもこれからの世の中、もうそれだけでは先々立ち行かないことは明確です。だから広く多くの方に乗っていただきたいと思っています。いま小林が言った通り、ぜひ試乗していただきたいです。レイバックにしても、ただレヴォーグルの車高を上げただけじゃないぞっていうことをご理解いただけると思います。

F:ともかく試乗を、と。今日はありがとうございました。

一同:ありがとうございました!

 こうして2時間に及ぶ長いインタビューは終了しました。

 スバルの大きな転機となるであろうレヴォーグ レイバック。確かに今までのスバルとはひと味もふた味も違う味付けです。冷やかしでもいいですから、お近くの販売店で試乗(可能であればレヴォーグとレイバックの乗り比べを)することをお勧めします。目からウロコがポロポロ落ちること請け合いです。

 それではみなさま、ごきげんよう。

レイバックに採用されている、ハーマンカードンって?

 こんにちは、AD高橋です。

 近年、自動車メーカーがハイエンドオーディオブランドのカーオーディオを設定しているケースが増えています。レイバックは、アメリカの高級オーディオメーカーであるHarman Kardon(ハーマンカードン)のサウンドシステムを標準装備しています。

 シドニー・ハーマンとバーナード・カードンが1953年に設立したハーマンカードンは、1959年に世界初の超広帯域真空管アンプ「サイテーションII」を発表。1980年には世界初の高電流機能アンプ「サイテーションXX」を発表します。サイテーションXXの音質はオーディオ愛好家を魅了し、最高峰のパワーアンプと称賛されたといいます。

 1999年に発表された「サウンドスティック」は、クリアなドーム型ボディのサブウーファーが美しいサウンドシステム。多くの人が画期的なデザインに驚き、大ヒットしました。この製品はデザインとサウンドを融合させた優れたオーディオ機器として、ニューヨーク近代美術館(MoMA)に所蔵されています。その後もハーマンカードンはデザイン性に優れたハイファイオーディオを世に送り出し、多くのファンを獲得しています。

 ハーマンカードンは、カーオーディオにも力を入れていて、スバルの他にもボルボやマセラティ、BMWなど多くのメーカーと、各モデルの特性に合わせたサウンドシステムを共同開発してきました。スバルでは4代目レガシィの北米仕様車で初採用されています。レヴォーグ レイバックではインパネに80mmと16mmのユニティスピーカー、フロントドアに178×254mmのミッドウーファー、リアドアに170mmと25mmのコアキシャルスピーカーを配置。そしてフロントシート下にアンプが設置されています。

 ほとんどのドライバーは、ラジオを含め、運転中になんらかの音楽を楽しんでいるはず。ただ、「音楽が趣味というわけではないし、普通のオーディオでいいよ」という人も多いでしょう。でもぜひ一度、普通のカーオーディオとハイエンドブランドのカーオーディオの音を聴き比べてみてください。その違いに驚きますよ。もっとも違いを感じるのは音の再現性。一つ一つの粒が際立って聴こえ、音楽の輪郭をとてもクリアに楽しむことができます。 また、単にアンプやスピーカーがいいだけでなく、各パーツの設置もいいので、音量を上げてもビビりがなく、粒が際立つ音をそのまま楽しめます。ここがメーカー純正のいいところ。レイバックは標準装備になりますが、レヴォーグだとハーマンカードンのサウンドシステムはオプションで11万円。この値段はバーゲンプライスだと思いますよ。

SpotifyやApple Musicなどサブスクで音楽を聴く人も良い音で楽しめる

 最近はCDではなくスマホのサブスクで音楽を聴く人が多いでしょう。これらは音源が圧縮されているため、良い音で音楽を楽しみたい人には不満もありますが、レイバックのハーマンカードンサウンドシステムは、圧縮音源のデータを解析して省かれたデータを再現する「クラリファイテクノロジー」を搭載しています。

 スバルはハーマンカードンを採用する以前、3代目と4代目レガシィの日本仕様ではアメリカのマッキントッシュのサウンドシステムをオプション設定していました。私はこのシステムがどうしても欲しくて、BH型のツーリングワゴンを中古車で探す際にかなり苦労したのを覚えています。これは肌感覚ですが、当時は設置している中古車が1割もなかったように思います。

 最終的にマッキントッシュが付いたGT30を発見し、即決で購入。ピアノブラックのフロントパネルに淡いブルーのデジタル表示がカッコよかったんですよね。もちろんサウンドも最高でした。

 ちなみにハイエンドオーディオは、愛車を売却する際にプラス査定になるケースが多いはず。意外と高い買い物ではないかもしれませんよ。

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